市長の幹部職員2人に対するパワーハラスメント行為が認定された事例
野洲市長が幹部職員2人に対するパワーハラスメントを認定され、謝罪したと報道されました。
NHKWEB 2022年7月6日 12時56分
裁判になったわけではなく、第三者委員会が調査した上でパワハラを認定したものです。
第三者委員会から、パワハラと認定された行為は以下のとおりです。
【職員Pに対するパワハラ】
① 机にボールペンをたたきつけた行為
② 職員Pに「3日話しても同じや」との発言
③ 職員Pに「P、お前もや」と叱責した
【職員Qに対するパワハラ】
④ 市議会の一般質問終了後、議場で職員に対し「ええかげんにせえよ」「ちゃんと言えよ」などと叱責(しっせき)したこと
上記①はともかく、上記②ないし④がパワハラというのは厳しすぎるという印象を持った方も多いのではないでしょうか。
私も同じ印象を持ちました。
しかし、野洲市が公開した第三者委員会の報告書をよく読むとパワハラと認定されることもあり得るとの印象受けました。
まず、第三者委員会は、上記①の行為について、ボールペンは、離れた場所に座っていた職員に当たる危険性はなかったが、「物を叩きつけるという物理的な手段で威嚇するものであった」と評価しています。
身体に対する直接の攻撃だけでなく、間接的な攻撃もパワハラとなりますので、この評価はやむを得ないでしょう。
上記②の「3日話しても同じや」との発言については、「職員の進言を頭ごなしに拒否する姿勢を表し、ボールペンを叩きつけた行為と相侯って、栢木市長の職員らに対する威嚇的な態度を増幅させる効果を生じさせたもの」と評価されています。
②の発言だけを取り上げて、パワハラと認定したものではなく、ボールペンを投げつけた行為と関連させてパワハラと認定したものです。
上記③「P、お前もや」との叱責は、発言だけを聞くと、パワハラと認定するのは市長に酷であるように思います。
しかし、同発言は職員Pの議会答弁に対する叱責であったのですが、第三者委員会は、職員Pの答弁に責められるべき点がなく、市長の叱責は根拠がないものであったと認定しています。叱責に理由がなかったことがパワハラと認定に大きく影響しているのです。
職員Qに対する④についても、発言内容だけをとらえると、パワハラと認定するのは厳しすぎると捉える方も多いと思います。
しかし、報告書によれば、録画に基づき、栢木市長は、職員Qが自席に着座し資料の片付けをしているところに近づき、机を指でこっこっと音をさせて叩きながら「ええかげんにせえよ。」「言ったやろ。」「ちゃんと言えよ。」と叱責したとして、その状況も含めて認定している上、市長が叱責する根拠はなかったということです。
第三者委員会は、単に発言だけでなく前後の経緯や状況を踏まえてパワハラと認定しています。
野洲市の案件で明らかなとおり、パワハラの認定は、単に発言だけでなく、その経緯、言動の理由、具体的な状況に基づき認定されるものです。理由なく感情的に部下を叱責することがないように注意する必要があります。
特に最近は録音や録画が残されていることが多いため、指導や注意する際には、録音されていても問題ない表現で注意や指導する必要があります。
山手線の緊急停止に対する駅員の態度が話題となっていますが、この事件でも駅員が冷静に対応していれば、騒ぎにならなかったはずです。駅員の主張が正当であったとしても、感情的な対応をした映像が残ると印象が変わってしまいます。
では、野洲市の一件について職員の方が慰謝料請求を求めて訴訟提起した場合、どの程度の慰謝料が認定されるでしょうか。
職員が受けた被害の実態が不明ですが、裁判実務の傾向からすれば、それぞれの職員に対し単発のパワハラだけであれば、一人あたり数万円、多くても数十万円程度であると考えられます。その意味で、単発的な発言によるパワハラが裁判に至るケースは少ないです。
訴訟等に至る案件のほとんどは、パワハラ行為が継続しているケースです。パワハラが継続することで、被害者は心身の調子を崩しうつ病を発症してしまうこともあり、被害が大きくなります。
職場環境が悪化することは採用に影響しますので、パワハラは避けなければいけませんが、指導との境界に曖昧な点があり悩ましいところです。
まずは、パワハラ行為を継続することがないように注意しましょう。
パワハラと指導の境界線で悩む経営者の方も多いと思います。
パワハラの意義、指導との境界を整理したスライドを掲載しますので、参考にされてください。
パワハラの定義
パワハラの定義
パワーハラスメントとは
① 優越的な関係を背景とした言動であって
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
③ 労働者の就業環境が害されるもの
上記①から③までの要素を全て満たす必要あります。
また、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。
「 業務上必要かつ相当な範囲を超えた 」とは
「 業務上必要かつ相当な範囲を超えた 」 言動とは 、 社会通念に照らし 、 当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない 、 又はその態様が相当でないものを指します。
具体的には、① 業務上明らかに必要性のない言動、② 業務の目的を大きく逸脱した言動、 ③ 業務を遂行するための手段として不適当な言動です。
実際に判断する際には、当該行為の回数 、 行為者の数等 、 その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動であるかどうかを判断することになります。
端的に言えば、①状況、②目的、③手段の3つがポイントとなるということです。
問題社員に対する指導の必要性
経営者としては、素行不良や能力不足が認められれる問題社員に対し厳しく指導したいところですが、パワハラは避けなければなりません。そこで、指導・監督とパワハラの 境界線を知る必要があるがあるわけです。
以下パワハラの態様に分けて、具体的にパワハラに該当する行為とパワハラを避けるポイント説明いたします。
指導とパワハラの境界線 「パワハラを避けるポイント」
① 身体的な攻撃(暴行・傷害)をしない
市長がボールペンを叩きつけて叱責する行為がパワハラと認定された報道もありました。直接ではない間接的な攻撃も避けるべきです。
② 精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱)をしない
③ 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)をしない
④ 過大な要求をしない
⑤ 過小な要求をしない
⑥ 私的なことに過度に立ち入らない
指導とパワハラの境界線 「NGワード」
人格を否定するパワハラのNGワード
上記のような人格を否定する表現はNGです。避けましょう。
退職、解雇等を示唆するNGワード
退職、解雇等を示唆する言動もNGです。根拠なく退職や解雇だと断定しないよう注意しましょう。
退職勧奨や懲戒解雇は、弁護士や社会保険労務士に相談した上で、適切に行いましょう。