労働基準監督署による監督等の傾向
技能実習生受け入れ企業に対する監督指導
技能実習生を中心とした外国人労働者に対する人権侵害が報道され、国際的にも非難を浴びていることから、労働局は外国人を受け入れる企業に対し、労働基準法違反について積極的に監督指導しています。
Twitterでも投稿しましたが、労働基準法違反に関する監督指導が多数存在することが連日報道されています。
監査を受けた70%の会社で労働基準法違反が認められたと報道されています。
最近は従業員10人~30人程度の小規模な会社でも技能実習生や特定技能外国人を受け入れており、そうした会社では労働基準法を完全に遵守することができない実情があり、こうした報道に繋がっているのだと実感します。
労働基準法に違反した場合の行政処分、刑事処分等の可能性
行政指導・行政処分
それでは労働基準法に違反した場合、会社経営にはどのような影響があるのでしょうか。
労働基準法違反については、まず、労働基準監督署から指導を受けることが多いです。
また、技能実習生を受け入れている会社であれば、労働基準監督署による指導とは別に外国人技能実習機構の監査を受け、改善命令、認定取消等の行政処分を受ける可能性があります。
刑事処分
労働基準監督署の指導に従わない場合や、法令違反の程度が著しい場合には、刑事処分を受ける可能性があります。
労働基準法に違反して刑事処分を受ける場合、違反した経営者等の個人だけでなく、会社も同じ責任を負うことになっています。
そして、刑事処分を受けることになれば、外国人の受け入れにも大きく影響があります。
まず、労働基準法違反に関する刑事事件の流れを簡単に説明しましょう。
刑事事件の流れ
労働基準法違反については、通常、労働基準監督官が事件について捜査します。
その捜査結果を検察庁に書類送検します。
書類送検された事件について、補充の捜査をした上で、検察官は起訴するかどうかを決定します。
法令違反の内容、程度、事件後の会社側の対応、被害者の処罰感情など諸般の事情を踏まえて、検察官は起訴しない、つまり不起訴処分(起訴猶予)とすることがあります。
労働基準法違反の事件の80%から90%程度が労働基準監督官によって捜査されて書類送検されます。
そして書類送検された労働基準法違反の事件のうち最終的に起訴されるのは20%程度です。
起訴する場合にも、略式請求(つまり罰金)で処理される場合もあります。罰金は労働基準法違反の場合、30万円までがほとんどです。
重大な法令違反である場合には略式請求ではなく、正式な裁判(公判請求)がなされます。
労働基準法違反の例
労働時間規制違反(労働基準法32条・35条・36条)
法定労働時間は1日8時間、1週間40時間となっています。この法定労働時間を超えて労働させるためには労働基準法36条1項に基づくいわゆる36協定を締結して届出する必要があります。
労働基準法32条に違反した場合6か月以下の懲役又は300,000円以下の罰金に処せられます。
36協定を締結届出していれば、労働時間を超えて労働をさせることができますが、協定において定めた上限時間・日数を超えて労働させれば、労働基準法32条・ 35条違反となり、6か月以上の懲役又は300,000円以下の罰金に処される可能性があります。
働き方改革により法律により労働時間の上限が定められました。
この上限規制に違反すれば労働基準法36条6項違反として、6か月以上の懲役又は300,000円以下の罰金に処される可能性があります。
最近は、この上限規制に違反した事例について、刑事処分を受けたとの報道がされていますので、長時間労働が常態化している会社は特に注意が必要です。
割増賃金(残業代)未払い(労働基準法37条)
労働時間を延長し又は休日に労働させた場合には、割増賃金を乗じた残業代を支払う必要があります(労働基準法37条)。
労働基準法37条に違反して残業代を支払っていない場合、6か月以上の懲役又は300,000円以下の罰金に処せられる可能性があります。
小規模の会社では、未だに残業代を法令に従って払っていない会社が少なくありません。
全く残業代を支払っていないというより、固定残業制を導入しているが判例が要求する要件を満たしていない事例、勤怠管理が不適切で残業代の一部しか支払っていない事例、休憩時間が取れていないにも関わらず休憩時間が存在することを前提に残業代を適切に支払っていない事例が多いです。
こうした事例はいきなり刑事事件として捜査を受けることは少なく、まず指導を受けることが一般的ですが、いずれせよ、法令遵守することが必要ですので、具体的な運用について労働法に精通した弁護士に相談するべきでしょう。
労基法違反の外国人受け入れ企業への影響
労働基準法に違反していることが発覚した場合、外国人の受け入れにはどのような影響があるでしょうか。
労働基準法に違反し、刑罰を受けるようなことになれば外国人の受け入れに大きな影響があり会社の存続に関わるのです。
外国人を受け入れている会社の経営者はこの点を深刻に考えていない方が多いです。
技能実習生・特定技能外国人を受け入れている企業への影響
行政処分の可能性
労働基準法に違反している場合、認定計画や技能実習法に違反する事態となっている可能性が高いです。
そのため、外国人技能実習機構から改善命令や認定取消などの処分を受ける可能性があります。
刑事処分による実習認定の取消
労働基準法に違反して罰金刑などの有罪判決を受ければ、実習認定の欠格事由及び取消事由に該当することになります。
単に当該技能実習生の実習認定の欠格事由及び取消事由になるだけではなく、新たに5年間技能実習生を受け入れることができなくなります。
そして既に受け入れている技能実習生も全て退職させ他社に転籍させなければならなくなります。
5年間外国人受入れが不可能に
さらに、技能実習生に加えて特定技能外国人を受け入れていた場合に、技能実習認定を取消されれば、5年間、特定技能外国人を受け入れることもできなくなります。
したがって、労働基準法に違反して罰金刑を含む有罪判決を受ける、あるいは、認定取消処分を受けるような事態となれば、外国人を受け入れる会社は事業存続の危機となるのです。
労働基準法違反の指導・捜査等の対応
労働基準法を遵守する必要性
労働基準法を守る事は従業員を雇用するすべての会社に当然求められることです。
特に外国人受入れ企業が労働基準法に違反していることが発覚した場合、信用を失うだけでなく、認定取消等の行政処分により外国人労働者を雇用し続けることができなくなり、事業の存続が困難になります。
外国人を受け入れている会社にとっては、労働基準法を守って経営することは、そうでない会社よりもより重要なのです。
労働基準法違反が発覚して指導や捜査を受けた場合
万が一労働基準法に違反している実態があるのであれば、直ちに法令違反を改める必要があります。
働き方改革における労働時間規制に違反して長時間労働をしている場合や、残業代を適切に支払っていない場合などは、労働基準監督署による指導を受けるだけでなく、場合によっては刑事処分を受ける可能性があります。こうした事態に陥らないように直ちに運用を見直して法令を遵守した経営に努めましょう。
すでに労働基準法違反が発覚してしまった場合には、入管や技能実習機構から処分を受けないように、法令違反が発生した経緯や原因について詳細に分析した上で、再発防止策を策定し実行したことを報告する必要があります。
また処分を受けることで外国人労働者だけでなく会社の存続それ自体にも大きな影響があることを説明するなど、可能な限りの対応する必要があります。
労働基準法違反について労働基準監督署から指導や捜査を受けた場合には、労務問題と刑事事件に精通した弁護士に弁護活動を依頼する必要があります。
特に技能実習生や特定技能外国人などの外国人を受け入れている会社は、外国人労務問題に精通した弁護士に上記事件を依頼する必要があります。
外国人労務問題に精通していない弁護士等の専門家に相談した場合、罰金刑を受けることの影響の大きさや入管や機構による行政処分の可能性とその影響の大きさを理解せずに助言することがありますので、注意しましょう。
弊所では、外国人を受け入れている会社が労働基準監督署等から指導や刑事事件の捜査を受けた場合の再発防止策の策定・実行、入管・機構等の行政処分対応、刑事弁護活動等の相談・依頼をお受けしています。お気軽にご相談ください。