このページでは特定技能外国人を受け入れる場合に、会社側に要求される条件について簡単に解説します。
特定技能ビザの申請は、外国人の審査というよりも、受け入れる会社の労務管理体制の審査だと考えて頂く必要があります。
雇用契約の内容
従事する業務の内容
そもそも、雇用契約において、予定されている業務の内容が特定技能で認められた産業分野に属する業務である必要があります。
つまり、特定技能外国人が従事する業務は、特定産業分野に属する業務であり、省令で定める相当程度の知識もしくは経験を必要とする技能を要する業務(特定技能1号)、または当該分野に属する同令で定める熟練した技能を要する業務(特定技能2号)とされています。
特定技能が認められる具体的な分野は出入国在留管理庁のサイト(特定技能総合支援サイト)に掲載されているとおり以下の14分野(12+2)です。そのうち建設と造船・船用工業については、特定技能2号も認められています。
労働時間
特定技能所属機関に雇用される通常の労働者と同等であることを求められています。
「通常の労働者」とは、フルタイムで雇用される労働者のことを意味しています。アルバイトやパートタイムで雇用される短時間労働者は含まれません。
したがって、基本的にはフルタイムで働く正社員と同じ時間帯で雇用することになるでしょう。
報酬額
報酬額は、日本人が従事する場合の報酬と同等額以上であること、また、報酬の決定、教育訓練、福利厚生施設の利用等についても差別的取扱いをしてはいけないとされています。
なお、報酬には、原則として、通勤手当、扶養手当、住宅手当等の実費弁償の性格を有するものは含まれません。
要するに同じ仕事をしている日本人と同じ賃金にする必要があるということです。
外国人だからといって低い賃金にすることはできません。
差別的な取扱いがないこと
賃金規程がある場合:
特定技能外国人と国内人材が同一の賃金規程によって報酬が決定されている場合には「同等以上」とみなされます。
賃金規程がある場合はわかりやすいですね。
賃金規定がない場合:
①比較対象となる国内人材がいる場合
当該国内人材の報酬と比較して、特定技能外国人の報酬が同等以上であることが必要です。
②比較対象となる国内人材がいない場合
最も近い業務内容等を担う国内人材と比較して、当該国内人材と特定技能外国人の報酬の額が、国内人材と特定技能外国人との役職・職務内容・責任の程度について、両者の差を合理的に説明できる必要があります。
そして、当該差を考慮し、国内人材の報酬と特定技能外国人の報酬を比較して、報酬が妥当といえる必要があります。
特定技能外国人と近い業務内容等を担う国内人材がいない場合には、近隣同業他社において同等の業務に従事する特定技能外国人の報酬額と比較して、当該差が妥当なものといえる必要があります。
一時帰国に対する配慮
特定技能外国人が一時帰国を希望した場合、会社側は、業務上のやむをえない事情がある場合を除き、有給休暇を取得させる必要があります。
この点を忘れている会社がありますので、注意しましょう。特に、新型コロナウィルスの感染拡大がひと段落した時期に、一時帰国を希望する外国人が多いです。
派遣の場合
特定技能制度では、「農業分野」及び「漁業分野」については派遣形態での雇用が可能です。
派遣の対象とする場合、派遣先である本邦の公私の機関の氏名・名称、住所、派遣期間を雇用契約で定める必要があります。派遣が可能な分野であるか否かを事前に必ず確認しましょう。
帰国旅費
特定技能外国人が特定技能雇用契約の終了後に帰国する際の帰国費用は本人負担が原則ですが、当該外国人がその帰国費用を負担することができない場合、会社側が帰国費用を負担するとともに、出国が円滑になされるための対応が求められています。
特定技能2号の対象分野が広がらない限り、5年間の特定技能1号の期間満了後には帰国することになる外国人がほとんどであると予想されます。原則は外国人が自分で帰国費用を用意すべきですが、会社が負担せざるを得ない状況もあり得ることを理解しておきましょう。
健康状況に対する配慮
労働安全衛生法に基づき、雇入れ時の健康診断や雇用期間中の定期健康診断を適切に実施することや、健康状況に問題がないか定期的に特定技能外国人からの聞き取りを行うなどの対応が求められます。
特定技能外国人に限った話ではありませんね。日本人にも同様の配慮をすることが必要です。
分野別の基準
特定産業分野ごとの特有の事情に鑑み、特定産業分野に係る運用要領で定められた基準に適合する必要があります。これを「上乗せ基準」といいます。
各分野の上乗せ基準についても確認しましょう。
会社の法令遵守状況・体制
労働、社会保険及び税金
特定技能所属機関は、労働関係法令、社会保険関係法令、租税関係法令の遵守が求められています。
労働関係法令とは、労働基準法、労働契約法、労働安全衛生法、労働者派遣法、最低賃金法、雇用保険法及び労働者災害補償保険法等を指します。
①労働契約が労働基準法等に違反していないこと
②雇用保険及び労災保険の適用事業所である場合、当該保険に加入し、保険料を納付していること
③特定技能外国人と特定技能所属機関との間の雇用関係の成立の斡旋を行った者がいる場合、斡旋した者が無料職業紹介の届出を行い、もしくは有料職業紹介の許可を得ている得ていること
以上の条件を満たしている場合、労働関係法令を遵守していると評価されます。
社会保険関係法令とは、健康保険法、厚生年金保険法、国民健康保険法、国民年金法等を指します。
各保険の適用事業所である場合、加入手続きを行い、適切に保険料を納付していることが求められます。
租税関係法令とは、所得税、法人税法、地方税法等の租税関係法令一般を指します。
国税及び地方税を適切な時期に納付している場合、租税関係法令を遵守していると評価されます。
上記の①が以外に遵守されていないことがあります。残業代の未払などはもってのほかですし、労働時間の上限規制に違反していないか注意する必要があります。労働安全衛生法違反により労災事故が発生している場合も注意が必要です。中小企業が遵守できていない労働関係法令は、経営者の方が考えているよりも多いです。
特定技能外国人の受入前に弁護士・社会保険労務士に相談して、労働基準法違反がないか確認する必要があります。費用をかけて募集・採用した後に、特定技能のビザ申請をしたが許可されないという事態は避けなければなりません。
非自発的離職(解雇等)がないこと
会社側には、特定技能外国人が従事する業務と同種の業務に従事する労働者について、非自発的に離職させていないことが求められています。
非自発的に離職させた場合とは、下記のようなケースをいいます。
- 人員整理を行うための希望退職の募集または退職勧奨を行った(自然災害等の発生によるやむを得ない解雇を除く)
- 労働条件に係る重大な問題があったと労働者が判断したもの
- 就業環境に係る重大な問題(ハラスメント等)があった場合
- 特定技能外国人の責めに帰すべき理由によらない有期労働契約の終了
1名でも非自発的離職者を出した場合、受入れ困難に係る届出が必要となり、また、当該所属機関が雇用する他の特定技能外国人も在留期間更新許可を受けることができなくなるため、当該特定技能外国人に対する転職等の支援が必要となります。
パワハラ・セクハラにより退職した場合などが非自発的離職に該当する場合がありますので、注意しましょう。
なお、労働者とは、フルタイムで雇用される国内人材、中長期在留者及び特別永住者の従業員を指します。パートタイムやアルバイトは含まれません。
行方不明者がいないこと
特定技能所属機関が、「責めに帰すべき事由」すなわち賃金の未払や一号特定技能外国人支援計画の適正な実施を行わない場合等により、1名でも行方不明者を発生させた場合は、受入れ困難に係る届出が必要となります。
行方不明者がでた場合に必ず受入ができなくなるわけではありません。会社側に責めに帰すべき事由がある場合のみですので、この点は安心してください。いずれせよ、仕事だけでなく、生活状況にも配慮して日本、会社、地域になじむことができるように配慮する必要があります。
欠格事由
欠格事由とは、下記のものがあります。
- 関係法令による刑罰を受けたことによるもの
- 行為能力、役員の適格性によるもの
- 実習認定の取消しを受けたことによるもの
- 出入国又は労働関係法令に関する不正行為を行ったことによるもの
- 暴力団排除によるもの
関係法令による刑罰には、不正就労助長罪も含まれています。「留学」の在留資格の資格外活動により許可されている1週間28時間以内を超える、いわゆるオーバーワークが発覚した際、使用者側に不正就労助長罪が成立する事例が頻発していますので、注意が必要です。
保証金や違約金
悪徳ブローカーによる金銭トラブル防止の観点から、特定技能外国人について保証金の徴収等の財産管理や違約金についての契約締結が確認された場合、特定技能雇用契約は締結しないことが求められています。
派遣の場合
今現在、派遣は、「農業」と「漁業」分野にのみ、労働者派遣もしくは船員派遣が認められています。
特定技能所属機関となる派遣元には、下記のいずれかに該当すること、特定産業分野を所管する関係行政機関の長と協議の上で適当であると認められる機関であることが必要です。
(1)当該特定産業分野(農業・漁業分野)に係る業務又はこれに関連する業務を行っている者であること。
(2)地方公共団体又は(1)に掲げる者が資本金の過半数を出資していること。
(3)地方公共団体の職員又は(1)に掲げる者が業務執行に実質的に関与していると認められる者であること。
(4)外国人が派遣先において従事する業務の属する分野が農業である場合にあっては、国家戦略特別区域法第16条の5第1項に規定する特定機関であること。
また、派遣先についても、下記の規定に適合することが必要です。
・労働、社会保険及び租税に関する法令の遵守
・非自発的離職者の発生がないこと
・行方不明者の発生がないこと
・関係法令による刑罰を受けたこと、行為能力・役員の適格性、実習認定の取消し、出入国又は労働関係法令に関する不正行為、暴力団排除による欠格事由に該当しないこと
労災
特定技能所属機関において、労働者災害補償保険に係る保険関係の成立の届出が必要です。
なお、暫定任意適用事業に該当する場合で労災保険に加入していない場合、労災保険の代替措置として民間の任意保険に加入する必要があります。
事業の継続性
特定技能外国人が安定して就労できること、また、特定技能所属機関が安定継続して事業を遂行できるように、財政的基盤を有していることが求められています。
財政的基盤を有しているかは、特定技能所属機関の事業年度末における欠損金の有無及び債務超過の有無等から判断されます。
資産超過であれば財政的基盤を有していると言えます。
前事業年度において債務超過の場合、
・前々事業年度が資産超過である場合は、中小企業診断士、公認会計士等の第三者による改善の見通しについて評価を行った書面を提出し、特段問題がなければ財政的基盤を有しているものと判断されます。
・前々事業年度も債務超過である場合、中小企業診断士、公認会計士等の第三者による評価につき、
①増資や親会社等による救済等の具体的な改善策の見通しの有無
②債務超過の原因が借入金であり、短期間に返済を求められるものでないことが明らかか
等を踏まえて、総合的に判断されます。
分野別の基準
特定産業分野ごとに告示で定められる基準(上乗せ基準)に適合する必要があります。
支援体制(登録支援機関に委託する場合)
省令にて、一号特定技能外国人支援計画の適切な実施の確保に関する基準が定められています。
この支援体制の基準については、登録支援機関に当該支援計画の実施の全てを委任した場合、本基準を満たしているとみなされるため、特定技能所属機関において支援体制を整備する必要はありません。
初めて特定技能外国人を受け入れる場合には、登録支援機関に委託するのがよいでしょう。登録支援機関の選定にお悩みの場合には、弊所にご相談ください。信頼できる登録支援機関をご紹介できます。
支援体制(自社で支援する場合)
支援責任者等について
特定技能外国人を受け入れる会社は下記項目のいずれかに該当する必要があります。
イ 中長期在留者の受入れ又は管理を適正に行った実績があり、かつ、役員又は職員の中から、一号特定技能外国人支援計画の実施に関する支援責任者及び外国人に特定技能雇用契約に基づく活動をさせる事業所ごとに1名以上の支援担当者を選任すること
ロ 役員又は職員であって過去2年間に中長期在留者の生活相談業務に従事した経験を有するものの中から、支援責任者及び外国人に特定技能雇用契約に基づく活動をさせる事業所ごとに1名以上の支援担当者を選任していること
ハ イ又ロの基準に適合する者のほか、これらの者と同程度に支援業務を適正に実施することができる者として認めたもので、役員又は職員の中から、支援責任者及び外国人に特定技能雇用契約に基づく活動をさせる事業所ごとに1名以上の支援担当者を選任していること
なお、支援担当者と支援責任者は同一の人物が兼務することも可能です。
言語体制
一号特定技能外国人支援計画の適切な実施のため、特定技能外国人が十分に理解できる言語による支援体制を構築していることが求められています。
なお、当該体制について、常時通訳を雇用する必要はなく、必要に応じて、通訳を委託する程度の対応でよいとされています。
文書の保存
省令により、一号特定技能外国人支援の状況に係る文書の作成と保管が義務付けられています。
過去の履行状況
一号特定技能外国人支援の適切な実施の確保のため、特定技能所属機関について特定技能雇用契約締結前5年以内及び当該特定技能雇用契約締結後に、一号特定技能外国人支援を怠ったことがないことが求められています。
定期的な面談
特定技能所属機関に対し、支援責任者及び支援担当者が特定技能外国人及びその監督者と3ヵ月に1回以上の頻度での、直接対面しての面談を実施する体制を有することが求められています。
分野別の基準
特定産業分野ごとに告示で定められる基準(上乗せ基準)に適合する必要があります。
支援体制に関するまとめ
複数名の特定技能外国人を雇用しており、今後も雇用し続ける見込みがある場合には、支援業務の内製化を検討する価値があります。
登録支援機関に支払う委託料が、自社支援した場合の見込み負担額を上回る場合には、自社支援を検討してもよいでしょう。自社支援することで、特定技能外国人との距離が近くなり、相互理解が深まったという話をききます。
自社支援を検討されている場合には、お気軽に弊所にご相談ください。
特定技能を受け入れる会社の条件についてのまとめ
特定技能ビザは、外国人に関する審査というより、受け入れる会社の審査です。
外国人については、技能試験と日本語能力試験(N4)に合格しているかが問題になる程度ですが、これらも合格通知書等を資料として提出すれば足ります。
したがって、特定技能外国人を受け入れる場合には、会社の労務管理・法令遵守体制が審査されるということをご理解いただき、準備をする必要があります。
人材紹介会社等とは異なる観点で、法令遵守を含めた採用戦略について相談を希望される方はお気軽にお問い合わせください。
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