会社は自ら定めた就業規則の効力を否定することができるでしょうか。
未払い賃金等請求事件(残業代等)で、この点が争点となった大島産業事件を取り上げて解説します。
- 会社が自ら定めた就業規則の効力を否定することはできるか。
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効力を否定できないと判示した裁判例がある
●大島産業事件
(福岡高裁令和元年6月27日判決、福岡地裁平成30年11月16日 労働判例1212号5頁以下)
会社側の主張
「本件就業規則等の作成当時,被告会社は長距離トラック運送業を行っておらず,土木従業員の固定給が想定されていたため,賃金算定の前提となる始業・終業時刻や休日の定めが労働実態と合わず,賃金算定の方法も現実とかい離しているから,「合理的な労働条件が定められている就業規則」とはいえないと主張」
裁判所の判断(福岡地裁)
- 「本件就業規則等の定める労働条件が合理的なものといえる」
- 「就労や賃金支払の実態とかい離しているからといって,就業規則としての合理性が失われるわけではない。」
- 「そもそも,就業規則の契約内容規律効を認める前提として,合理的な労働条件であることが求められる趣旨は,就業規則が,労働契約は労使の対等な立場における合意に基づいて締結及び変更されるとする原則(労契法3条1項)によらず労働者を拘束するものであるため,その拘束力を制限して労働者の権利を保護すること」
↓
「個別の合意によることなく労働者の労働条件を規律すべく,就業規則を定めた使用者において,労働者との個別の合意がないにもかかわらず,就業規則が合理的な労働条件ではないことを理由として,自らその拘束力を否定するのは禁反言の法理に反するというべきである(民法1条2項)。」
ポイント
- 就業規則の書式などをそのまま利用したりしない
- 就業規則を定めるからには、会社の業務実態に合わせた規程とするべき
- 定期的に顧問弁護士等に内容を精査してもらうべき
●関連する裁判例
- グレースウィット事件(東京地判平成29年8月25日・労働判例1210号77頁)
- ケイエムティコーポレーション事件(大阪地判平成29年2月16日)